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お知らせ

ワタミが「ブラックとは全然思っていない」の結果

30年で街の居酒屋から上場企業まで登りつめた立志伝中の企業のワタミの周囲が慌ただしい。

ワタミは10月2日、外食事業などを手掛ける全額出資子会社のワタミフードシステムズを12月1日付で吸収合併すると発表、介護子会社の売却によってグループの主力事業が食品関連事業に集中することから、組織統合で経営効率化を目指すとしています。

ワタミが「ブラック企業」という烙印をおされて以降、2014年3月期に上場以来初めて49億円の最終赤字を計上、翌2015年3月期にはさらに赤字が拡大した129億円を計上、経営悪化の声は日増しに高まったいる中、ワタミはついに介護事業の売却を決断しました。

売却額は210億円で、来年2016年3月期に約130億円の売却益を計上する見通しで、これにより連結最終損益は140億円程度の黒字と3期ぶりに黒字に転換となります。

総資産の6割強を占める介護事業を切り離し、自己資本比率を上げ、巻き返しを図るワタミ。

しかし、主力の国内外食事業の既存店売上高は4~8月も前年比で約1割減で、今期の売上高は前期比1割減の1300億円前後と予想されています。

ワタミの業績不振は「ブラック批判」だけではなく、時代の流れで居酒屋が「古く」なったという要因もあるでしょう。さまざまな要因があったにせよ、やはりワタミにとって「ブラック批判」は大きな影響を与えたと言わざるを得ません。

そのあたりを今回は考えてみましょう。

「ワタミのブラック報道」をどう受け止める?

「ワタミ」のキーワードでニュース検索をすると、介護事業の売却や吸収合併の記事以外で、最近の記事で出てくるのは例えば以下のような記事です。

ワタミ、債務超過寸前の経営危機 キャッシュ流出、多額負債…自己資本での再建困難
biz-journal.jp/2015/10/post_11978.html

恐らくワタミの復活は「ない」と考えられる理由 「外食業界の星」はなぜ没落したのか?
biz-journal.jp/2015/10/post_11891.html

「ワタミ型」キングオブ社畜の特徴 脱落した人間を陰で軟弱モノ呼ばわり
news.livedoor.com/article/detail/10722932/

「もうダメだよね」といわんばかりの記事のオンパレード。

「ブラック批判」から業績不振、そして今現在とここ数年の出来事はまっしぐらの様相で、挙句の果てが上記のような記事となれば目も当てられません。

このメルマガでは2013年8月にワタミの「ブラック企業批判」について取り上げました。

あれから2年とちょっと。2年前のメルマガを振り返ってみましょう。

2013年8月のメルマガで私はダニエル・ディアマイアー著「評判はマネジメントせよ」の中から

一般市民が信頼に基づく規範の枠組みで捉えている問題を、企業人は純粋な経済的な取引として概念化している場合があり、その齟齬が道徳的憤りと処罰願望の引き金となるおそれがある。

を引用して、当時のワタミに対する論争について考察しました。

当時はワタミの創業者である渡辺美樹氏が参議院の自民党比例区で出馬して当選、この参議院選挙で共産党の新人で共産党としては12年ぶりに東京選挙区で議席を獲得した吉良佳子氏が渡辺氏を激烈に攻撃しました。吉良氏は、名前をもじって「ワタミキラー」とも呼ばれるくらいの勢いでした。

このときのお二人の主張というのが対象的で、少しだけ紹介すると渡辺氏は

  • ブラック企業が納税する税金はブラックマネーか?
  • その会社を信じて1万人以上の人が頑張って働いてるのよ。失礼にも程があるだろう?
  • 共産党は納税者をブラック呼ばわりするのか?
  • 直接納税だけで年間30億以上も納税してる会社をブラック呼ばわりするって。政治って票を集めたらそれだけで良いのか?

と言い、

「ワタミキラー」の吉良氏は、

ワタミをブラック企業といったら、とある経営者の方から、「何がブラックなの?」「外野からブラックなんて言われる筋合いは全くない」と批判をいただいきました。

しかし、過労死する人をだしながら、なお労働基準法違反が常態化している企業は外部からも正さなければ、従業員が救われません。

と主張する。

2年前にも書きましたが、この両者の発言はどちらの主張がより正しいかは置いておいて、

「一般市民」VS.「企業人」

「信頼に基づく規範の枠組み」VS.「純粋な経済的な取引」

の視点で見たほうが両者の主張がピンとくるはずだと指摘しました。

一般市民が信頼に基づく規範の枠組みで捉えている問題を、企業人は純粋な経済的な取引として概念化している場合があり、その齟齬が道徳的憤りと処罰願望の引き金となるおそれがある。

このディアマイアー氏の言葉は現在問題になっている横浜市の傾いたマンション問題などにも関連してきます。

「ブランドを信用して買ったのに。とても不安なので早く建て替えてほしい」というのが住民の率直な意見だと推測しますが、三井不動産グループの説明会での対応を見ていると、「一般市民が信頼に基づく規範の枠組みで捉えている問題を、企業人は純粋な経済的な取引として概念化している」と見ないわけにはいきません。

そして「その齟齬が道徳的憤りと処罰願望の引き金となる」可能性を大いに秘めている。

ワタミの業績不振は時代の波をつかみきれなかった要因があるにせよ、庶民の「道徳的憤りと処罰願望」がワタミの業績に数年たって大きな影響を及ぼしたといえるのではないでしょうか。

先の横浜の傾いたマンション問題では、現時点では販売元の三井不動産グループから建物を支えるくいの工事を請け負い、データの偽装を行った旭化成建材、およびその親会社である旭化成へと重点が移っているように見えますが、もしマンションを販売した三井不動産グループが「被害者面」をしていると、のちに住民および庶民からの「道徳的憤りと処罰願望」を誘発するでしょう。

「一般市民」VS.「企業人」

21世紀は・・・などというとあまり流行りませんが、それでもあえて使うなら21世紀はもはや「論争の時代ではない」と私は考えています。

「朝まで生テレビ」的な大きな声を出したもの勝ちという要素がある論争といえないエンターテイメントも含めて、もはや論争は企業にとって益はない。

それは情報発信やプレスリリースに意味がないということではありません。同じ土俵に乗ってワイワイガヤガヤ話し合ったり、言い合ったりする意味がないということです。

横浜の傾いたマンションであれば、直ちに建て替えの決定、およびその間の保証の約束であって、住民説明会ではない。

施工業者の偽装だと被害者面をしても、「一般市民が信頼に基づく規範の枠組みで捉えている問題」にいかなる反論も通用しないでしょう。

建て替えやその間の保証を1年かけて話し合って最終的に決めるくらいなら、即座に決定したほうがいい。

それは数年前のワタミのブラック批判から始まる評判の低下、不信、業績悪化をみればわかるでしょう。

企業経営においても、誹謗中傷や風評被害の対策において、

「一般市民」VS「企業人」
「信頼に基づく規範の枠組み」VS「純粋な経済的な取引」

この枠組みを知らなければ、対策としての打ち手は全部裏目に出てしまいます。

仮に論争に勝ったと仮定して、企業は、その企業の評判は守られるのか。その業績は維持、発展できるのか。

企業が論争に勝って、評判を落とすとするなら、営利企業にとってこれほど虚しいことはないのではないでしょうか。

クレームもミスも、いわれのない誹謗中傷も、思いもしない風評被害についても、こうした「一般市民」VS「企業人」そして「信頼に基づく規範の枠組み」VS「純粋な経済的な取引」を頭に入れて対処する必要があります。

この枠組みを無視していかに主張し、論争を続けても営利企業にとっての勝利はない。そのことを最近のワタミの業績は示していると思いますし、横浜のマンション問題では初動の対処を誤りつつあると思います。

私たちは「一般市民が信頼に基づく規範の枠組みで捉えている問題」を自分たちの論理で見ても、論じても、裁いてもならない。

なぜなら、それは「道徳的憤りと処罰願望の引き金となるおそれがある」から。

他人の失敗を学ぶことで、自分の失敗を回避できるのです。愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶのですから。

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