
「どこからが誹謗中傷なのか」を3つの罪名で解説!被害を受けた際の相談先も紹介
- 誹謗中傷
現代社会において、すべての人に「表現の自由」は保障されています。自分の意見や思想などを自由に発言できることは、人々が持つ重要な権利です。しかしインターネットやSNSの普及に伴い、心ない言葉や過激な表現で他者を傷つける「誹謗中傷」が増えています。法務省の人権擁護機関に寄せられるインターネット上の人権侵害に関する相談件数は依然として高水準であり、令和6年は新規救済手続開始件数1,707件でした。特に、SNSや掲示板などでの誹謗中傷が社会問題化しています。
「表現の自由」と「誹謗中傷」との境界があいまいになっている場面も見受けられ、企業や個人がその線引きを誤ることで社会的な批判や法的リスクを招く可能性もあります。また企業が誹謗中傷やSNS炎上によって受ける影響は非常に大きく、ブランドイメージ低下や売上減少、採用への悪影響など事業運営に深刻なダメージを与えかねません。
RCIJが2025年5月に行った意識調査では、社員の不適切投稿による炎上があった場合に「購入を控える可能性がある」と回答した人の割合は87.6%にまで上りました。そこで今回の記事では誹謗中傷に該当するラインを解説し、関係する代表的な3つの罪名や被害を受けた際の相談先などを紹介します。インターネットトラブルの危機管理に不安のある企業さまは、ぜひ参考にしてみてください。
引用: RCIJ(日本リスクコミュニケーション協会)PR資料
どこからが誹謗中傷になるのか?表現の自由との線引き

SNSや掲示板など、企業や個人に対する発言が瞬時に広く拡散される時代になりました。こうした中で問題となっているのが「表現の自由」と「誹謗中傷」の境界線です。どのような発言が問題となるのか、判断が難しいケースも増えています。この章では誹謗中傷とされる可能性のある言動の基準と、表現の自由との線引きについて解説します。
誹謗中傷に該当するライン
誹謗中傷かどうかを判断する際は「相手の社会的評価を不当に傷付けている」かが1つの基準となります。虚偽の情報はもちろんのこと、事実であっても企業や個人が知られたくないことを不必要に拡散することは許されません。
例えば「あの人は無能だ」や「担当者の対応が最悪」などと、企業や担当者個人の能力や人格を直接的に侮辱・否定することは相手の信用や社会的評価を損なう行為です。投稿された内容によって相手の評価が低下した場合は、名誉毀損や侮辱罪などに該当する可能性があります。近年、侮辱罪厳罰化やプロバイダ責任制限法などの改正により、ネット上の誹謗中傷への対応が法的に強化されました。そのため、加害者特定から損害賠償請求までのプロセスが迅速化しています。
表現の自由とは「意思や思想を規制なく自由に表明する権利」
フランス革命によって「表現の自由」が宣言され、意見や思想を規制されることなく自由に表明することは人が持つ貴重な権利の1つであるとされています。民主主義社会の基本的人権の1つであり、多くの国の憲法や国際的な人権規約で保障されています。日本においては大日本帝国憲法で「法律の範囲内」と定められていましたが、日本国憲法には表現の自由に規制を設ける文言は記載されていません。
表現の自由により不当に言論を抑圧することを防ぎ、社会の中で多様な意見が交換されることを促進しています。表現の自由は基本的な権利である一方で、誹謗中傷は他者の名誉を傷つける行為です。自分の発言が他人や社会に影響を与える可能性があることを理解し、表現の自由は「無制限に他人を傷つける行為に使われるべきではない」という考え方を持つことが重要です。
誹謗中傷はどこから罪に問えるのか?具体的な罪名3選

誹謗中傷は「道徳的に問題がある言葉」というだけでなく、加害者側は刑事処罰や損害賠償の対象となることもあります。企業は顧客や取引先とのコミュニケーションにおいて、不用意な発言がトラブルへと発展するリスクがあるため、法的責任を伴う行為と見なされる基準を正しく理解することが重要です。この章では誹謗中傷が「罪」として成立する要件を、代表的な3つの罪名を用いて解説します。
名誉毀損罪
誹謗中傷が名誉毀損罪に該当するかどうかは、言論や行動が他人の名誉を不当に傷つけたかを基準に判断されます。刑法230条に規定されており、名誉毀損罪の成立要件は以下の3点がポイントとなります。
- 公然性(公開の場で行われ、不特定多数の人が見聞きできる状態)
- 事実摘示性(具体的な事実)
- 社会的評価の低下の有無
摘示した事実が真実か虚偽かに関係なく、相手の社会的評価を低下させる内容を不特定多数が見聞きできる場所で伝える行為は名誉毀損罪に該当する可能性が高いです。SNSや掲示板など誰でも閲覧できる場所への投稿は、不特定多数の人に伝えることになるため、公然性が認められる場合が多いです。また、第三者の投稿にコメントする形で発信した内容も、事実摘示性が認められれば名誉毀損罪が認められる場合があります。
企業が名誉棄損の被害を受けた事例を、2つ紹介します。
【会社が社員に対して損害賠償を求めた事例】
某運送会社の社員が「社長に懲戒解雇にすると言われた」「急に解雇通知された」などとインターネットの掲示板に書き込み、会社や社長に関する誹謗中傷を行いました。社会的信用を失いかねない内容の投稿であったため、会社側は社員に対して損害賠償請求を行った事例です。誹謗中傷による名誉毀損が認められ、掲示板に書き込みをした社員に対して損害賠償の支払いが命じられました。(平成14年の判例)
【SNSでの誹謗中傷に対して損害賠償を求めた事例】
国内外で支援活動を行っているNGOがX(旧Twitter)上で悪質なデマ投稿を拡散され、名誉を傷付けられたとして損害賠償請求を行った事例です。投稿は匿名でしたが、プロバイダに対して発信者情報開示請求訴訟を行い個人を特定しました。2025年3月に、名誉毀損が認められて投稿を行った個人に対して損害賠償命令が下されたことを当団体が発表しています。
侮辱罪
侮辱罪は、他人を侮辱的な言葉や態度で傷つける行為を指します。刑法第231条に規定されており、侮辱罪が成立する要件は以下の3点がポイントです。
- 公然性
- 侮辱的な意図(意図的に行われている)
- 相手を侮辱するような発言や行動の有無
公の場で意図的に行われた侮辱的な発言は、刑事罰の対象として扱われます。侮辱的な言葉や行為が相手の名誉や品位を傷つけるものであれば、侮辱罪に問える可能性が高いです。名誉毀損罪は事実の摘示が基礎となりますが、侮辱罪は侮辱的な言動そのもので罪が成立します。
2022年7月7日に施行された、侮辱罪の改正内容は以下のとおりです。
改正前 | 改正後 | |
法定刑 | 拘禁刑もしくは科料 | 1年以下の懲役もしくは禁錮もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料 |
公訴時効 | 1年 | 3年 |
成立範囲 | 変更なし |
公訴時効が延びたことで、捜査機関が証拠収集や犯人特定により時間をかけられるようになります。そのため、被害者が泣き寝入りせざるを得なかったケースが減少する可能性があり、誹謗中傷に対して適切な法的対応をとりやすくなっていくでしょう。また、教唆犯や幇助犯も処罰の対象となります。厳罰化後の具体的な判例はまだ少ないものの、悪質なネット上の書き込みやSNSでの暴言などに対して、今後より積極的に適用される可能性があります。
法改正により公訴時効が延びたことで、投稿者の特定が難しいインターネット上の誹謗中傷や悪質な書き込みなどに対しても訴えを起こすことが可能です。さらに、これまでは見過ごされていた悪質な書き込みも、厳罰化されたことで問題視される可能性があります。
偽計業務妨害罪
偽計業務妨害罪は虚偽の情報や詐欺的手段で人を騙し、他人の業務を妨害する行為を指します。刑法第233条に規定されており、偽計業務妨害罪が成立する要件は以下の3点がポイントです。
- 虚偽の情報または詐欺的行為
- 故意に業務を妨害
- 業務への影響の有無
偽計業務妨害罪は、虚偽の情報や詐欺的行為で業務を妨害されたことが明確でなければなりません。業務を妨害することを目的として意図的に虚偽の情報を流し、実際に損害や悪影響が及んでいる場合は偽計業務妨害罪が成立する可能性が高いです。
実際にあった、偽計業務妨害罪が認められた事例を紹介します。
【災害時のデマ情報で逮捕者が出た事例】
2024年の能登半島地震の際にSNS上で虚偽の救助要請を投稿し、救助活動を妨害したとして偽計業務妨害罪で逮捕者が出た事例です。地震発生後、SNSへの投稿をもとに警察官が救助に向かったが、被害は確認されませんでした。震災に便乗して「注目を浴びたかった」などと供述しており、悪質なデマで人命救助や復旧活動を妨げたとして偽計業務妨害で逮捕されました。インターネット上の安易な投稿は、刑事罰を受ける可能性があります。
誹謗中傷を受けた際の相談先

誹謗中傷の被害を最小限に抑えるためには、早期の適切な対応が大切です。しかし、誹謗中傷への対応方針が定まらず「まず何から着手すべきか分からない」と戸惑う企業も多いでしょう。そこでこの章では、誹謗中傷に直面した際の相談先を紹介します。適切な機関や専門家に相談することで精神的な負担を軽減し、具体的な対応策を見つけられます。
弁護士
弁護士は法律の専門家であり、誹謗中傷に関連する法的知識や経験を豊富に持っています。発言の内容や状況を詳細に確認し、法律の観点から罪に問えるのかを的確に判断できる点がメリットです。誹謗中傷の内容が名誉毀損罪や侮辱罪に該当する場合、法的根拠や対応策について的確なアドバイスを提供してくれます。
また法的措置をとるための証拠集めや訴訟の手続き、さらには加害者側との交渉まですべて代理で行ってくれるためスムーズに進みます。弁護士に依頼することで感情的な対立を避け、冷静かつ効果的な問題解決が期待できるでしょう。
さらに、制度改正によりインターネット上の誹謗中傷被害に対する救済手段が大きく前進しています2022年10月1日より施行された改正プロバイダ責任制限法により、インターネット上で誹謗中傷や悪質な書き込みなどの被害を受けた場合の発信者特定が、従来より迅速かつ効率的に行えるようになりました。「発信者情報開示命令」制度が新設され、1つの裁判所への申し立てで包括的に発信者情報の開示が可能となったことで時間と費用の負担軽減が期待されています。
ほかにも開示請求できる情報の範囲も広がり、従来の「IPアドレス」「タイムスタンプ」に加え、ログイン時のIPアドレスや電話番号も対象に含まれるようになりました。そのため、匿名性が高いSNSや掲示板での悪質な投稿でも投稿者の特定がしやすくなっています。改正法の適用後、店舗に対する悪質なクチコミ投稿について、改正プロバイダ責任制限法を利用して投稿者の電話番号を開示させ、投稿者を特定し損害賠償請求に至った事例があります。匿名性の高いプラットフォームでの誹謗中傷に対しても、泣き寝入りせずに済む可能性が高いでしょう。
公的機関の相談窓口
公的機関の相談窓口では、誹謗中傷に対する適切な対応をアドバイスしてくれるので、問題の早期解決に向けた手助けとなります。誹謗中傷を受けた際の相談窓口は、以下のような機関があります。
- 警察
- インターネットホットラインセンター
- 各自治体(市区町村)の相談窓口
- 各地の弁護士会
- 法務省の人権擁護機関
警察やインターネットホットラインセンターなど、さまざまな選択肢があるので自分の状況に応じて最適な窓口を選ぶと良いでしょう。名誉毀損罪や侮辱罪などにあたる場合は、警察や弁護士会に相談することで刑事または民事の責任追及を行えます。人権侵害や差別的な発言にあたる場合には、個人の権利の保護や適切な支援を行ってくれる人権擁護機関への相談がおすすめです。
誹謗中傷を専門的に扱う会社
インターネット上やその他のメディアでの誹謗中傷に対して、迅速かつ専門的に対応するサービスを提供している会社へ相談することで、早期解決が期待できます。削除依頼や証拠収集、さらには法的手続きのサポートなど必要な支援を受けられます。
また、ブランド毀損や業務妨害といったリスクを最小限に抑える、予防策としても有効です。炎上対応マニュアルの整備や社員向けの啓発研修など、トラブル発生や再発防止に向けた支援を行っている会社もあるため、継続的なリスクマネジメントにもつながります。
誹謗中傷に対して法的措置を行えない場合の対応

誹謗中傷が名誉毀損や侮辱に該当する場合、法的措置を取ることができます。しかし「発信者の特定が難しい」もしくは証拠が不十分な場合、法的責任を追及するのは難しいです。そこでこの章では、法的手段が取れない場合の誹謗中傷に対する心構えと、実践的な行動を紹介するので参考にしてみてください。
静観する
すべての誹謗中傷に対して法的責任を問えるわけではないため、静観して状況を見守ることが有効なケースもあります。「法的に訴えるほどの重大な損害が発生していない」または証拠が不十分な場合は訴訟が困難です。
このような場合は、無理に法的手続きを進めると時間や費用がかかるうえに、逆に事態が悪化するリスクを抱えてしまいます。例えば裁判を起こすことで情報が公になればトラブルが多くの人に知られるため、企業の評判やブランドイメージに長期的なダメージを与えかねません。
また誹謗中傷の内容が虚偽であることが明らかになれば、誹謗中傷を信じる人は徐々に減っていきます。そのため発信者側の信用が失われ、法的措置をとらなくても時間とともに問題は自然と解決へと進むでしょう。
ただし、静観することが必ずしも最適な選択肢であるわけではありません。法的措置をとれない場合や状況が不確実な場合には冷静に事態を観察し、次の最善のステップを見定めることも有効な対応方法の1つです。
ポジティブなコンテンツの発信
誹謗中傷に対する反論は行わず、ポジティブな情報を発信し続けることでイメージ回復を図る方法です。信頼性のある前向きな投稿を継続的に発信し、Googleなどの検索エンジンが「重要な情報」と認識すれば、自社にとってポジティブな情報が検索結果の上位に表示されやすくなります。
新たな情報がネガティブなコンテンツを目立たなくさせ、自身の信頼性やブランド価値を守ることにつながります。ポジティブなコンテンツの発信は、受け身ではなく主体的な対策の1つとして現実的かつ効果的な方法です。
まとめ

「どこから誹謗中傷に該当するか」は法律では定められていませんが、判断基準として「相手の社会的評価を不当に傷付けている」かがポイントとなります。誹謗中傷の程度によって、刑事または民事で加害者側に責任を追及できます。ただし必ずしも罪に問えるわけではないため、法的措置が取れない場合の対策を知っておくことが大切です。
誹謗中傷を受けた場合は公的機関または民間企業に相談し、迅速かつ適切な対応を取ることで被害を最小限に抑えられます。ソルナ株式会社の「カイシャの病院」は、インターネットトラブルの解決と予防を行う専門機関です。
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